夫婦岩をみてください。夫の岩、妻の岩、そしてその間に母親に寄り添っている愛児の岩。平凡だがなんとほほえましい光景ではありませんか。でもそこには、子どもを死なせてしまった罪深い夫婦が鬼にまでなって子どもの供養をおこなった、悲痛な物語と涙の教訓が秘められているというのです。
その物語とは―。この夫婦岩がある木ノ村に大昔、一組の大男、大女夫婦が住んでおった。夫は大変な乱暴物で酒好き、仕事もせずに酒ばかり飲んでおったが、女房はというと働き者で夫に負けない力持ち、怠け者の夫と、派手なけんかが絶えなかった。それでも両夫婦とも一粒種の息子の事は目の中にいれても痛くないほどかわいがっておったそうな。
ある日の事、夫が女房のとってきたウリを持ち、息子を連れて大岩のてっぺんで盗み食いをしていたところ、探しにきた妻に見つかってしまった。夫は手当たり次第ウリを投げつけた。そしてあろうことか、自分たちの愛児まで投げつけて死なせてしまったのだ。
はっとわれにかえった夫婦は悔やんで悔やんで毎日毎日泣いて、神様に救いを乞うた。神様は、死んだものは生き返りはしない、谷にある一番大きな石を二つこの神社に運び一生供養しなさいと命じられた。
夫婦は、谷にある何千トンもある二つの巨岩と絶望の中で必死に格闘した。そして自分たちの犯した罪がその岩より重いことを悟ったのであった。神は後悔する夫婦に鬼の神通力を与えた、格闘するたびに鬼は大きくなり、やがて巨岩を庭に移すことが出来たのだった。神はその岩を夫婦岩と名付け、息子の姿を刻み、鬼をこわがる村人から遠く離れ、遠くからその岩の姿を見て供養を続けるよう命じた。
夫婦岩にまつわるこの物語は、巨岩より重い命の尊さと夫婦げんかはほどほどに、家族みんなが仲良く暮らすことの大切さを私たちに教えています。木ノ村というのは実は"鬼の村"と呼ばれていたのかも知れない。
(テレビ「日本昔話」でも紹介されました)